高校授業料無償化法案が衆院を通過した。
これにより公立高校で授業料を徴収しない実質無償化制度が、4月から導入される見通しとなった。私立高校生には「就学支援金」を支給し授業料の負担を軽減する。
しかし、焦点となっていた朝鮮学校を支援対象に含めるかどうかの結論は先送りされた。
政府は今後、第三者機関を設け、朝鮮学校の教育内容を審査した上で適否を判断する方針だが、教育に排除の論理はそぐわない。分け隔てのない支援を求めたい。
法案は、無償化の対象に専修学校や各種学校を含めている。朝鮮学校は他の外国人学校と同じく各種学校に位置づけられ、文部科学省は朝鮮学校も含めて予算を計上していた。
ところが、中井洽(ひろし)・拉致問題担当相が、北朝鮮制裁の観点から朝鮮学校を対象から外すよう文科省に要請。鳩山首相もこれに理解を示したことから、除外の動きが急速に具体化した。
文科省は、無償化の目的として「すべての意志ある高校生等が安心して勉学に打ち込める社会の実現」を掲げている。
教育支援の有無を拉致問題とからめるのは筋違いだろう。鳩山首相が常々口にする「友愛」の理念ともかけ離れているのではないか。
日本の高校に当たる朝鮮高級学校は、札幌も含め全国に10校あり、約2千人が学んでいる。
民族教育を重視し、朝鮮史などの授業を行うほか、日本で生活する上で必要な知識を習得できるよう日本の高校に準ずるカリキュラムを組んでいるという。
首相は「国交のない国だから、教科内容を調べようがない」というが、ほとんどの大学は朝鮮高級学校の卒業生に受験資格を認めている。
高体連など各種スポーツ大会にも出場し、活躍している。高校生同士や地域との交流は深まっている。
支援を受けたければ日本の高校に進学すればいい、という意見もあるかもしれない。
しかし、民族の歴史、言語、文化を子供に学ばせたいという思いは、国籍、民族の違いを超えて共通のものだろう。朝鮮学校には朝鮮籍だけでなく、韓国籍の生徒も数多く通学している。
朝鮮学校を支援対象から外そうとする政府の動きは、国連人種差別撤廃委員会でも取り上げられた。差別的措置に対しては、国際社会から非難される懸念もある。
拉致問題を早期に解決しなければならないのは、いうまでもない。それは6カ国協議など外交の場でしっかりと、取り組んでもらいたい。
高校無償化法案の国会審議が続いているが、在日朝鮮人の生徒らが学ぶ朝鮮学校を対象から外すべきだという意見が政府内からも持ち上がり、論議になっている。除外意見は、拉致や核、ミサイル問題で誠意ある対応をしない北朝鮮に経済制裁で臨んでいる今、朝鮮学校を支援するのはおかしいという考え方に立つ。
拉致問題などに厳しい姿勢で臨むのは当然だ。だが、それと子供たちの教育支援とは全く別次元の問題である。それを結びつけ、外交制裁の一環のようにして教育現場にしわ寄せするのは、やはりおかしい。民主党政権の掲げた高校無償化の意義とも相いれないはずだ。
朝鮮学校は、学校教育法で定めた学校ではなく、「各種学校」とされる。授業に朝鮮語を用い、朝鮮史など民族教育に特色があるが、数学、物理など教科学習は、基本的に日本の学習指導要領内容に沿う。
高校に相当する高級学校は全国に10校(約2000人)あり、韓国籍の生徒も多い。また日本の大学の大半は高級学校卒業生に日本の高校同様に受験資格を認めている。
この生徒たちは、日本に生まれ育った社会の構成員であり、将来もそうだ。高校無償化は「子ども手当」とともに、社会全体で子供の成長を支えるという基本理念に立つ。その意味で子供自身に責任のないことで支援有無の区別、選別をするのは筋が通るまい。
北朝鮮の姿勢を理由に除外を押し通すなら、見せしめの措置と国際社会では受け止められかねない。子供たちに疎外感を持たせて何の益もない。野党の自民党内でも、この論議をめぐり、外交問題で教育の現場が左右されることがあってはならないという意見が出ている。それは、拉致の非道を断じて許さず、早急な解決を北朝鮮に迫る厳しい姿勢と矛盾するものではない。
各種学校については、無償化法成立後、文部科学省令で高校課程に類する教育をしていることを判断基準に対象を定める。川端達夫文科相が「外交上の配慮などが判断の材料にならない」としているのは適切だ。
論議に火がついたのは2月下旬。中井洽(ひろし)拉致問題担当相が朝鮮学校除外を要請していることが表面化すると、鳩山由紀夫首相もその方向であるような発言をした。
直後に「未定」と修正し、政府内の不統一ぶりをのぞかせた。法案を閣議決定した1月下旬の時点できちんと考え方を詰めておかなかったのも不可解だ。
今回の論議を機に、朝鮮学校をはじめ外国人学校の実態に関心が高まり、地域社会との交流活発化などにつながることも期待したい。
高校無償化法案の審議が国会で始まった。対象に朝鮮学校の生徒を含めるかどうかについて、川端達夫文部科学相は「排除の立場では検討していない」と述べ、北朝鮮との外交上の問題は判断基準にはしないとした。
発端は中井洽・拉致問題担当相が、北朝鮮制裁を理由に除外を提起したことだった。
鳩山由紀夫首相も先月末、「国交のない国だから、教科内容を調べようがない」と語った。
だが朝鮮学校の教育の大半は日本の学校に準じており、内容も公開されている。「調べようがない学校」ではない。先週は、衆院文科委員会の約20人が東京朝鮮高級学校を視察した。
朝鮮学校が北朝鮮とつながりがあることは事実だ。北からの援助金に運営の一部を支えられる。高校の教室には金日成、正日父子の肖像画があり、修学旅行は中国経由で平壌に出かける。独裁体制維持の手段である主体(チュチェ)思想も朝鮮史などの授業で触れられる。
そうであっても、朝鮮学校で学ぶ生徒への支援の問題と、北朝鮮の異様な体制への対応を同一線上でとらえるのは、やはりおかしい。
子どもの学ぶ権利は、基本的に差別なく保障されるべきだ。核開発や拉致問題で制裁を続けていることを理由に朝鮮学校を支援から外すことは、そうした問題とは関係のない子どもたちにも、制裁を加えることになる。それはあまりにも不当なことだ。
日本の朝鮮半島併合から100年。日本で暮らすコリアンが植民地支配以来の歴史を背負わされた存在だということも、忘れてはならない。
第2次大戦後も日本に残った人は、その後の祖国の分断という状況に苦悩した。北を支持する人、南を支持する人、どちらにも距離を置く人。差別に囲まれ本名すら名乗りづらい日本社会の中で、北朝鮮政府に支援された朝鮮学校が、在日朝鮮人社会のひとつのよりどころになってきた。
現在は、朝鮮学校生の半数程度が韓国籍だ。父母の姿勢も北朝鮮の支持者から反発する人まで様々である。それでも、民族の文化や言葉を大事にしたいという気持ちは共通している。
この問題は、あくまで子どもに必要な学びの保障という観点から判断すべきだ。
拉致や核と学校とをことさら結びつけるような発言に、子どもたちは動揺し、傷つく。政治家は想像力を働かせてほしい。
大阪府の橋下徹知事は「北朝鮮という国は暴力団と一緒。暴力団とお付き合いのある学校に助成がいくのがいいのか」と、疑問を呈した。だが、今冬の全国高校ラグビー大会で、大阪代表として4強入りを果たしたのは、大阪朝鮮高級学校だった。地域に深く根を下ろした学校の子どもたちを、差別する理由はない。
高校の授業料無償化法案の本格審議が、5日から衆院文部科学委員会で始まる。限られた財源で教育格差をどう解消していくか。それが本質ということを見失ってはならない。
政府案では、公立高校生の授業料を無償化し、私立高校生には公立の授業料と同額を支給する。私立の低所得層には1・5~2倍にするが、概算要求時より増額対象とする世帯の年収額を引き下げたため、対象者はかなり減った。
予算案は衆院を通過したが、財政事情の厳しい中、所得制限を設けていれば、もっと低所得層支援や公私間格差の解消に回せる財源を捻出(ねんしゅつ)できたのではないか。
高校生の約3割は私立に通う。その負担を減らすため、文部科学省が総務省に要望していた地方交付税措置は5分の1になった。
私立に限らず、入学金や教科書代を援助する低所得層への給付型奨学金も、概算要求で計上した120億円余りは全額削られた。
川端文部科学相らは、所得制限を設けない理由に、社会全体で子どもの教育を支援するという理念の実現などを挙げる。だが、目の前の格差縮小のほうが先決だ。
無償化をめぐっては、朝鮮学校の扱いも焦点になっている。中井国家公安委員長が対象外とするよう、文科相に要請したからだ。北朝鮮による拉致問題に絡み、「制裁をかけていることを十分考慮してほしい」という理由だ。
外国人学校の扱いは、各国で異なる。日本では、学校教育法で朝鮮学校などの外国人学校を各種学校とし、高校などの学校や専修学校とは区別している。
ただ、朝鮮学校では、朝鮮語や朝鮮史などのほか、数学や英語など高校と同じ教科も教えている。大学受験資格も多くの大学が認めており、高校総体などスポーツ大会にも参加できる。生徒には朝鮮籍だけでなく、韓国籍も多い。
民主党が「子育て・教育」政策の中に、授業料無償化とともに位置づけた子ども手当は、親の住所が日本国内にあれば支給される。両者の整合性も必要になる。
北朝鮮による核開発やミサイル発射、拉致問題への国民の反発はあるにせよ、今回の問題で朝鮮学校を他の外国人学校とことさら区別するのは、無理があろう。
法案では、生徒に授業料分を支給する専修、各種学校は、「高校に類する課程を置くもの」に限られている。その判断基準は、法案成立後、国会審議を踏まえて文科省令で定める。きちんと説明のつく内容にすべきだ。
鳩山政権が掲げる「国民の命を守る政治」を狭義に解釈すれば、日本に住む外国人には恩恵が及ばないことになる。そこにこだわっていては共生社会の実現は遠のく。この国に暮らす外国籍の人たちへの支援が、国家の役割として欠かせない。
4月から実施される高校無償化の対象に、在日朝鮮人の子女が学ぶ朝鮮学校を含めるか否かで政権内が揺れている。東北の朝鮮学校関係者の間でも不安が広がっているようだ。
きっかけは、中井洽拉致問題担当相が「日本は北朝鮮に制裁をしているのだから十分考えてほしい」と、文部科学省に対象除外を要請したことだった。
一向に進展しない拉致問題。国家的テロを犯し、その解決に協力しない独裁国家に厳しい姿勢で臨むのは当然のことだ。朝鮮学校は、その北朝鮮を支持する在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)と密接な関係にある。だからと言って、既に3世、4世になり日本社会に根付いている在日の若者の教育問題と制裁を絡めて論じていいものか。
高校無償化法案は、日本の高校と同等とみなされる各種学校の生徒にも就学支援金を支給すると定めている。朝鮮学校は、各種学校に該当し、高校に当たる高級学校は全国に10校ある。鳩山由紀夫首相は「国交がなく教育内容が見えない状況でどう扱うか」と言う。拉致問題と関係付けないとしても、今後つくる具体的な判断基準によっては除外される可能性がある。
朝鮮学校側では今回、国会議員による視察受け入れを表明したが、これまで教育内容が広く知らされてきたとは言い難い。郡山市にある福島朝鮮初中級学校を取材し、日常の様子を伝えた連載記事(「朝鮮学校のいま」)が昨年、本紙に掲載された。初級部では国語(朝鮮語)の授業が毎日最低1時限。朝鮮の地理・歴史や在日の歴史も習う。それ以外は日本の小中学校とほぼ同じカリキュラムという。かつては、金日成主席を礼賛する歌を多く教えたというが、それもない。思想教育にウエートを置いた内容から、日本定住を前提にした現実的プログラムに変わってきている。父母も生徒も学校をよりどころに日本社会との接点を懸命に模索している。そう理解していいのではないか。文科省は実際に視察するなどして授業内容を確認する必要がある。
「すべての意志のある高校生等が安心して勉学に打ち込める社会をつくる」というのが、高校無償化の趣旨だ。家庭の経済的負担を軽減し、教育の機会均等を保障しようという願いが込められている。厳しい経済社会に身を置き、家計をやりくりしなければならないのは、朝鮮学校に子どもを通わせる親も同じだ。学校の内外の実情が分かれば、難しい環境の中で学んでいる生徒を支援しない論拠は薄いと言える。対象の基準は文科省が法案成立後に省令で定める。外交ルートの有無による便宜的な線引きには無理があるのではないか。法案の理念と教育的視点に沿いしっかりと判断してほしい。